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安倍首相が主張する「悪魔の証明」…なぜ「ないこと」を証明するのが難しいのか
2017年03月31日 09時42分

学校法人「森友学園」の国有地売却問題で、証人喚問された籠池泰典氏の「昭恵夫人から100万円の寄付を受けた」とする証言について、安倍首相は3月28日の参院決算委員会で、首相側が「寄付していないこと」と証明することは困難という認識を示した。

首相は、「渡していないのは証明しようがない。いわば悪魔の証明だ。籠池氏らが出したものが検証されるべきだ」と指摘。「『ある』と言っている人が証明しないといけない」として、「100万円を寄付したこと」の立証責任は籠池氏側にあるという考えを示した。

この日の答弁では、菅義偉官房長官も「ないことを証明することは難しい」と述べているが、「ないこと」の証明が難しいというのはどういうことなのか。なぜ「悪魔の証明」なのか。濵門俊也弁護士に聞いた。

学校法人「森友学園」の国有地売却問題で、証人喚問された籠池泰典氏の「昭恵夫人から100万円の寄付を受けた」とする証言について、安倍首相は3月28日の参院決算委員会で、首相側が「寄付していないこと」と証明することは困難という認識を示した。

首相は、「渡していないのは証明しようがない。いわば悪魔の証明だ。籠池氏らが出したものが検証されるべきだ」と指摘。「『ある』と言っている人が証明しないといけない」として、「100万円を寄付したこと」の立証責任は籠池氏側にあるという考えを示した。

この日の答弁では、菅義偉官房長官も「ないことを証明することは難しい」と述べているが、「ないこと」の証明が難しいというのはどういうことなのか。なぜ「悪魔の証明」なのか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●「悪魔の証明」とは?

「そもそも悪魔の証明とは『所有権を有している』ということの証明が困難であることを比喩的に表現した言葉です。

この表現は、ラテン語の 『probatio diabolica』 に由来しています(英語では『devil’s proof』と表現されますので、英語のほうがわかりやすいでしょう)。

古くは中世ヨーロッパにおいて、土地の所有権の帰属を証明する際に、その所有権の由来を遡って逐一立証することは不可能であることを指して用いられました。わが国の民法学においても、物権法の分野ではそのような意味で現在でも使われています。

国会での答弁は、こうしたもともとの概念が転用された『消極的事実=ないこと』の証明の難しさを指して、比喩的に用いられる例として使われたのです。『悪魔の証明』という言葉は、もともとは法律学において使用されていましたが、現在ではディベート等のテクニックとしても知られています」

なぜ、「ないこと」の証明はなぜ難しいのか。

「それはこういうことです。『ある(あることや存在する)』ことを証明するためには、一例を挙げさえすれば証明できたこととなります。

ところが、『ない(ないこと、存在しない)』ことを証明するためには、世の中の森羅万象を調べ尽くさなければなりません。

たとえば、『白いカラスが存在する』ということを証明するためには、(見つかるかどうかは別にして)『白いカラス』を一匹でも捕まえてくれば証明できます。

しかし、『白いカラスは存在しない』ということを証明するためには、この世界に存在する全てのカラスを捕まえて、それが『白』でないことを明らかにしなければ、『白いカラスは存在しない』ということを証明できたとはいえないのです。

おそらく、それは不可能に近いでしょう。

そのため、議論の一般的ルールとして、『ある』と主張した者が、それを先に証明しなければならないという暗黙の了解があります。このような考えは、民事訴訟や刑事訴訟における証明責任の考えにも現れています。

端的にいえば、『あなたが先に<ない>ことを証明せよ、さもなくば<ある>のだ』とする詭弁を『悪魔の証明』と呼ぶわけです。

野党の追及に対して、安倍首相や政府側答弁が『悪魔の証明』と述べているのも、そのような趣旨だと思います。

それでは、今回の件で『100万円の授受』の証明責任がどちらにあるのでしょうか。これまでみてきたとおり、『100万円の授受』があったと主張した者(今回の件では籠池氏側)に証明責任があります。

その意味において、安倍首相や政府側答弁が正しいこととなりますし、籠池氏側で『100万円の授受』を根拠づける何かしらの客観的証拠が提出されない以上、国会では無駄な議論に時間を浪費しているといえます」

(弁護士ドットコムニュース)

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