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アーティストがコンサートで「口パク」 ファンはチケット代の「返金」を要求できるか
2013年04月26日 12時00分

音楽ファンたちの間で、しばしば議論の対象となる「口パク」。一部のアーティストの中には、コンサートや音楽番組で、生の歌声を披露せずに、あらかじめ録音された音源に合わせて口を動かすだけの人もいるらしい。今年1月には、米国の人気歌手・ビヨンセさんが大統領就任式の国歌斉唱で「口パク」をしたと話題になった。

アーティスト側には、「踊りながらの生歌は難しい」「大人数グループになると音響設備の関係で口パクにせざるを得ない」「歌唱スキルが生歌を披露できるレベルに達してない」といった、止むに止まれぬ事情があるのかもしれない。

しかし、生歌を期待して、コンサートのチケットを買ったファンはがっかりするだろうし、中には騙されたと感じる人もいるだろう。仮に、アーティストが事前の告知なしにコンサートで「口パク」を行った場合、チケットを購入したファンは「詐欺だ!」と言って、チケット代の返金を要求できないだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。

● ファンが「だまされていない」場合は、「口パク」でも詐欺とはいいがたい

まず、「口パク」が、法律上の「詐欺」といえるのであれば、チケットを買ったファンは購入契約を取り消すことができる。では、どのような場合に、詐欺が成立するのだろう。中村弁護士は、「人をだまして、被害者を錯誤に陥らせ、その結果、財産上の利益を得ることが必要です」と、その条件をあげる。

つまり、詐欺といえるためには、だます人とだまされる人がいなければいけないということだ。中村弁護士は、「主催者が詐欺を理由に払い戻しを求められたら、原則として拒否しづらいのではないか」と述べつつ、一部で「口パク」が行われているといわれるアイドルコンサートの場合は「ファンはだまされているわけではないのでは?」として、次のように述べる。

「支払ったチケット代の対価として、主に何を提供しているのかが重要です。良くないことではありますが、たとえばアイドルのファンは、目の前で生のアイドルを見るのが主目的で、最初から口パクであることをご承知の方が多いと思います。その場合、主催者と聴衆との間では『口パクでも構わない』『アイドルの可愛いダンスや仕草が見られればいい』という暗黙の了解があるといえるでしょう」

したがって、「両者の間では、だましてもいないし、だまされてもいないので、ファンが詐欺を主張して、チケット代の返金を求めることはできないでしょう」というのだ。さらに、アイドルだけでなく、海外の大物アーティストの場合でも、詐欺とはいいにくい場合があるという。

「たとえば、故マイケル・ジャクソンのライブは、ダンスパフォーマンスのクオリティをあげるために口パクだったこともあるといわれていますが、聴衆の目的は歌よりもダンスでしょう。そうなると、たとえ口パクであっても、素晴らしいダンスを生で見ることができれば、ぎりぎり許せる範囲なのではないでしょうか。先日、口パク疑惑が問題になったビヨンセの場合も、メインは大統領の就任式であり、有料のコンサートではありませんから、口パクでも聴衆に損害は生じていません」

●「歌唱力を売りにしたアーティスト」のライブは、「生歌」が期待されている

このように、口パクであることがわかっても、ただちに法律上の「詐欺」とはいえない場合もあるようだ。しかし、「損害賠償が認められる場合もありうる」と、中村弁護士は指摘する。それは、「歌唱力を期待されるアーティスト」のライブの場合だ。

「本来、ライブコンサートはその名のとおり、生演奏が基本であり、あらかじめ録音したものを聴かせる場ではないはずです。特に、歌唱力を売りにしたアーティストの場合、ファンは生の歌唱を期待していると思われるので、口パクの場合は『だまされた』ということができます。したがって、『詐欺だ』と言われても、主催者は反論できないでしょう」

そのため、歌唱力を売りにしているアーティストが「口パク」だったことが発覚したとき、ファンが本気でチケットの払い戻しを要求すれば、「主催者側は応じざるを得ないでしょう」というのだ。中村弁護士は「主催者側も意識をあらためて、口パクの場合は、きちんと事前告知してもらいたいものです」と述べている。

いくら歌が下手だとしても、ライブに足を運ぶファンは、アイドルやアーティストの生の歌を聞きたいと思っているのではないか。一部には「口パク」であることが半ば公認されているアイドルやアーティストもいるようだが、できるだけ「ライブ」にふさわしいパフォーマンスをしてほしいものである。

(弁護士ドットコムニュース)

音楽ファンたちの間で、しばしば議論の対象となる「口パク」。一部のアーティストの中には、コンサートや音楽番組で、生の歌声を披露せずに、あらかじめ録音された音源に合わせて口を動かすだけの人もいるらしい。今年1月には、米国の人気歌手・ビヨンセさんが大統領就任式の国歌斉唱で「口パク」をしたと話題になった。

アーティスト側には、「踊りながらの生歌は難しい」「大人数グループになると音響設備の関係で口パクにせざるを得ない」「歌唱スキルが生歌を披露できるレベルに達してない」といった、止むに止まれぬ事情があるのかもしれない。

しかし、生歌を期待して、コンサートのチケットを買ったファンはがっかりするだろうし、中には騙されたと感じる人もいるだろう。仮に、アーティストが事前の告知なしにコンサートで「口パク」を行った場合、チケットを購入したファンは「詐欺だ!」と言って、チケット代の返金を要求できないだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。

● ファンが「だまされていない」場合は、「口パク」でも詐欺とはいいがたい

まず、「口パク」が、法律上の「詐欺」といえるのであれば、チケットを買ったファンは購入契約を取り消すことができる。では、どのような場合に、詐欺が成立するのだろう。中村弁護士は、「人をだまして、被害者を錯誤に陥らせ、その結果、財産上の利益を得ることが必要です」と、その条件をあげる。

つまり、詐欺といえるためには、だます人とだまされる人がいなければいけないということだ。中村弁護士は、「主催者が詐欺を理由に払い戻しを求められたら、原則として拒否しづらいのではないか」と述べつつ、一部で「口パク」が行われているといわれるアイドルコンサートの場合は「ファンはだまされているわけではないのでは?」として、次のように述べる。

「支払ったチケット代の対価として、主に何を提供しているのかが重要です。良くないことではありますが、たとえばアイドルのファンは、目の前で生のアイドルを見るのが主目的で、最初から口パクであることをご承知の方が多いと思います。その場合、主催者と聴衆との間では『口パクでも構わない』『アイドルの可愛いダンスや仕草が見られればいい』という暗黙の了解があるといえるでしょう」

したがって、「両者の間では、だましてもいないし、だまされてもいないので、ファンが詐欺を主張して、チケット代の返金を求めることはできないでしょう」というのだ。さらに、アイドルだけでなく、海外の大物アーティストの場合でも、詐欺とはいいにくい場合があるという。

「たとえば、故マイケル・ジャクソンのライブは、ダンスパフォーマンスのクオリティをあげるために口パクだったこともあるといわれていますが、聴衆の目的は歌よりもダンスでしょう。そうなると、たとえ口パクであっても、素晴らしいダンスを生で見ることができれば、ぎりぎり許せる範囲なのではないでしょうか。先日、口パク疑惑が問題になったビヨンセの場合も、メインは大統領の就任式であり、有料のコンサートではありませんから、口パクでも聴衆に損害は生じていません」

●「歌唱力を売りにしたアーティスト」のライブは、「生歌」が期待されている

このように、口パクであることがわかっても、ただちに法律上の「詐欺」とはいえない場合もあるようだ。しかし、「損害賠償が認められる場合もありうる」と、中村弁護士は指摘する。それは、「歌唱力を期待されるアーティスト」のライブの場合だ。

「本来、ライブコンサートはその名のとおり、生演奏が基本であり、あらかじめ録音したものを聴かせる場ではないはずです。特に、歌唱力を売りにしたアーティストの場合、ファンは生の歌唱を期待していると思われるので、口パクの場合は『だまされた』ということができます。したがって、『詐欺だ』と言われても、主催者は反論できないでしょう」

そのため、歌唱力を売りにしているアーティストが「口パク」だったことが発覚したとき、ファンが本気でチケットの払い戻しを要求すれば、「主催者側は応じざるを得ないでしょう」というのだ。中村弁護士は「主催者側も意識をあらためて、口パクの場合は、きちんと事前告知してもらいたいものです」と述べている。

いくら歌が下手だとしても、ライブに足を運ぶファンは、アイドルやアーティストの生の歌を聞きたいと思っているのではないか。一部には「口パク」であることが半ば公認されているアイドルやアーティストもいるようだが、できるだけ「ライブ」にふさわしいパフォーマンスをしてほしいものである。

(弁護士ドットコムニュース)

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