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父親の遺体放置した息子夫婦、同居してないのに警察が逮捕に踏み切った「葬祭する義務」とは?
2024年05月10日 10時45分
#死体遺棄罪 #葬儀

亡くなった父親の遺体を自宅に放置したとして、和歌山市に住む息子夫婦が死体遺棄の容疑で逮捕されました。

報道によると、息子夫婦は、和歌山市の集合住宅で1人暮らしの父親が亡くなっていることを認識していたにもかかわらず、遺体を放置した疑いが持たれています。

毎日放送によると、2021年末、集合住宅の一室から「異臭がする」などと近所から管理会社に連絡があり、管理会社が、住人の連帯保証人である息子夫婦に部屋の確認を求めました。

その後、家賃滞納があったことから、管理会社が部屋の明け渡しを求めて提訴して、2022年11月に明け渡しの判決が出ました。裁判所の執行官が部屋に入ったところ、男性の遺体を発見したとのことです。

息子夫婦は父親と同居しておらず、父親の死亡にも直接の関わりはなかったとみられているとのことですが、なぜ逮捕されたのでしょうか。僧侶でもある本間久雄弁護士に聞きました。

亡くなった父親の遺体を自宅に放置したとして、和歌山市に住む息子夫婦が死体遺棄の容疑で逮捕されました。

報道によると、息子夫婦は、和歌山市の集合住宅で1人暮らしの父親が亡くなっていることを認識していたにもかかわらず、遺体を放置した疑いが持たれています。

毎日放送によると、2021年末、集合住宅の一室から「異臭がする」などと近所から管理会社に連絡があり、管理会社が、住人の連帯保証人である息子夫婦に部屋の確認を求めました。

その後、家賃滞納があったことから、管理会社が部屋の明け渡しを求めて提訴して、2022年11月に明け渡しの判決が出ました。裁判所の執行官が部屋に入ったところ、男性の遺体を発見したとのことです。

息子夫婦は父親と同居しておらず、父親の死亡にも直接の関わりはなかったとみられているとのことですが、なぜ逮捕されたのでしょうか。僧侶でもある本間久雄弁護士に聞きました。

●死体遺棄罪は死者の安息を願う「宗教感情」を保護するためのもの

——まず、死体遺棄とはどのような犯罪でしょうか?

死体遺棄罪は、死者に対する敬虔感情と死者の安息を願う宗教感情を保護するために設けられたものです。ここでいう「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とみられる方法によらないで、死体を放棄することをいいます。

死体の埋葬方法について、判例は「死者の遺骸を一定の墳墓に収容し、その死後安静する場所として吾人をしてこれを追憶紀念することを得せしむるをもって目的とするものなれば、必ずしも葬祭の儀式を営むのを要」しないとして、かならずしも葬祭の儀式を実際にする必要はないと判示しています(大審院大正13年3月4日判決)。

——一般的に、誰かが亡くなった際、故人の親族にその葬式をする義務はあるのでしょうか?

人の死亡について、法律上、何らかの行為をおこなうべき義務が明記されているのは、死亡届の提出についてだけです。戸籍法では、次のように規定されています。

「第87条 次の者は、その順序に従って、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。

第1 同居の親族 第2 その他の同居者 第3 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」

したがって、誰かが亡くなった際、故人の親族にその葬儀をおこなう義務はありません。

●「社会通念上葬祭する義務」が問われた事件

——報道によると、「警察は、過去の判例などから、息子夫婦は父親のお金も管理していたことなどから、社会通念上"葬祭"する義務があったがそれを怠ったとして、逮捕に踏み切ったとしています」(2024年5月8日付毎日放送ニュースより)としています。この「社会通念上葬祭する義務」とはどういうものなのでしょうか。

「社会通念上葬祭する義務」は、死体遺棄罪の主体を判別するために判例上用いられてきた概念です。

たとえば、東京高裁昭和40年7月19日判決では、次のように判示して、葬祭の義務は法令または慣習によって発生するとしています。

「従来の判例によれば、死体遺棄罪は葬祭に関する良俗に反する行為を処罰するのを目的とするものであるから、法令又は慣習により葬祭をなすべき義務のある者が、葬祭の意思なく死体を放置してその所在場所から離去する場合には、たとえみずから刑法上有責にその死体の死の結果を招いたものでないとしても、死体遺棄罪を構成するというにあると解せられるのであつて(大審院大正6年11月24日判決)、原判示のA及びBの両名は被告人の妻子であるので、被告人は慣習上これらの死体の葬祭すべき義務のあることは明らかである」

ただ、先述のように、人の死亡によって、法が人に何らかの行為を明文で義務付けるのは、死亡届の提出だけですので、「社会通念上葬祭する義務」は、慣習によって決まります。

従前の裁判例をみると、社会通念上葬祭する義務があると判断されたのは、新生児を殺害した母親(大審院大正6年11月24日判決)、妻子を殺した夫(父親)(東京高裁昭和40年7月19日判決)、祖母を誤って死に至らしめた孫(仙台高裁昭和27年4月26日判決)など、血のつながりのある家族に限られているようです。

息子夫婦が逮捕されたのは、葬祭の義務があるにも関わらず、父親の遺体を放置して、習俗上の埋葬等とみられる方法によらないで死体を放棄したから、死体遺棄罪が成立すると捜査機関が判断したからだと思われます。

編集部注:判決文の固有名詞を匿名にしています。

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