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PAC3で「北朝鮮ミサイル」を迎撃? 破片が落ちて被害が出たら賠償請求できる?
2013年04月18日 13時00分

東アジアの緊張が高まっている。4月に入って、北朝鮮が弾道ミサイルの発射準備ともとれる動きを見せているからだ。このような状況の下、日本政府はミサイル発射に備えて、自衛隊に「破壊措置命令」を発令し、各地に地対空誘導弾「PAC3」を配備した。

さらに4月12日、小野寺五典防衛相が、北朝鮮による今後のミサイル発射に備えるため、沖縄県内の自衛隊基地にPAC3を常時配備するという考えを示した。これによって、北朝鮮からミサイルが発射されることがあれば、PAC3による迎撃も現実味を帯びてきた。

仮に、PAC3が北朝鮮ミサイルの迎撃に成功した場合でも、その破片が国土に落ちる恐れがある。そのような破片によって、一般の家屋や住民に被害が出たとしたら、被害者は国に対して損害賠償を求めることはできるのだろうか。近藤公人弁護士に聞いた。

●国家賠償法に基づく損害賠償請求は難しい

まず一般論として、国に対して損害賠償を請求する場合には、どのような訴訟を起こすことになるのだろうか。

「国に対して損害賠償を請求する場合、国家賠償法に基づく請求(国賠法1条)となりますが、基本は、民法と同じ不法行為責任です」

このように近藤弁護士は指摘したうえで、次のように説明する。

「国家賠償法により損害賠償請求が認められるためは、『公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に損害を加えたとき』に該当する必要があります」

では、PAC3でミサイルを迎撃した際の被害はどうなのだろうか。

「今回は、政府から自衛隊に対して正式に『破壊措置命令』が出されていますので、迎撃行為は、違法と評価されないでしょう。仮に違法と評価されても、他の生命財産を守る正当防衛行為の場合、賠償責任を負いません」

このように近藤弁護士は、国家賠償法による賠償の対象にならないと話す。

●憲法に基づいて損失補償を請求する可能性

では、国賠法による損害賠償請求が難しいとしても、他に請求する方法はまったくないのだろうか。

近藤弁護士は、国民の財産権の保障を定めた「憲法29条3項」を根拠にして、損失補償を請求することが考えられると指摘する。

「憲法第29条3項は『私有財産は、正当な保障の下に、これを公共のために用いることができる』として、財産権を保障しています。

したがって、迎撃行為によってミサイルの破片が地上に落ち、財産が侵害されたときは、自分の財産は、『公共のために用いた』ものと解釈し、損失補償を請求できる可能性があります」

つまり、国家賠償法ではなく憲法に基づいて、損失補償を国に直接請求できる余地があるといえる。

もっとも、その可能性について、近藤弁護士は「今までに認められた事例はありません。国による損失補償が認められるハードルは高い、といわざるをえません」と述べている。

結局、国に損害の賠償や補償を請求しても、認められる見込みは低いといえそうだ。被害が出ないことを祈るしかないのは何ともやりきれないが、国は国民の生命、身体、財産を守るため最善を尽くして欲しいものだ。

(弁護士ドットコムニュース)

東アジアの緊張が高まっている。4月に入って、北朝鮮が弾道ミサイルの発射準備ともとれる動きを見せているからだ。このような状況の下、日本政府はミサイル発射に備えて、自衛隊に「破壊措置命令」を発令し、各地に地対空誘導弾「PAC3」を配備した。

さらに4月12日、小野寺五典防衛相が、北朝鮮による今後のミサイル発射に備えるため、沖縄県内の自衛隊基地にPAC3を常時配備するという考えを示した。これによって、北朝鮮からミサイルが発射されることがあれば、PAC3による迎撃も現実味を帯びてきた。

仮に、PAC3が北朝鮮ミサイルの迎撃に成功した場合でも、その破片が国土に落ちる恐れがある。そのような破片によって、一般の家屋や住民に被害が出たとしたら、被害者は国に対して損害賠償を求めることはできるのだろうか。近藤公人弁護士に聞いた。

●国家賠償法に基づく損害賠償請求は難しい

まず一般論として、国に対して損害賠償を請求する場合には、どのような訴訟を起こすことになるのだろうか。

「国に対して損害賠償を請求する場合、国家賠償法に基づく請求(国賠法1条)となりますが、基本は、民法と同じ不法行為責任です」

このように近藤弁護士は指摘したうえで、次のように説明する。

「国家賠償法により損害賠償請求が認められるためは、『公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に損害を加えたとき』に該当する必要があります」

では、PAC3でミサイルを迎撃した際の被害はどうなのだろうか。

「今回は、政府から自衛隊に対して正式に『破壊措置命令』が出されていますので、迎撃行為は、違法と評価されないでしょう。仮に違法と評価されても、他の生命財産を守る正当防衛行為の場合、賠償責任を負いません」

このように近藤弁護士は、国家賠償法による賠償の対象にならないと話す。

●憲法に基づいて損失補償を請求する可能性

では、国賠法による損害賠償請求が難しいとしても、他に請求する方法はまったくないのだろうか。

近藤弁護士は、国民の財産権の保障を定めた「憲法29条3項」を根拠にして、損失補償を請求することが考えられると指摘する。

「憲法第29条3項は『私有財産は、正当な保障の下に、これを公共のために用いることができる』として、財産権を保障しています。

したがって、迎撃行為によってミサイルの破片が地上に落ち、財産が侵害されたときは、自分の財産は、『公共のために用いた』ものと解釈し、損失補償を請求できる可能性があります」

つまり、国家賠償法ではなく憲法に基づいて、損失補償を国に直接請求できる余地があるといえる。

もっとも、その可能性について、近藤弁護士は「今までに認められた事例はありません。国による損失補償が認められるハードルは高い、といわざるをえません」と述べている。

結局、国に損害の賠償や補償を請求しても、認められる見込みは低いといえそうだ。被害が出ないことを祈るしかないのは何ともやりきれないが、国は国民の生命、身体、財産を守るため最善を尽くして欲しいものだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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