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マンションでゴキブリ大量発生! 「発生源」の飲食店に損害賠償を請求できるか?
2013年07月03日 17時31分

夏になると活動が活発になるゴキブリ。どれだけ駆除しようとも、どこからともなくあの黒い影が姿を現すから不思議だ。

編集者のYさん(男性)はゴキブリが大の苦手。夏が近づくと、先手を打ってゴキブリ駆除に乗り出すのが、この季節の恒例行事だという。

このYさん、去年の秋に引っ越しをしているのだが、その理由もゴキブリだった。自分でどんなに頑張って駆除しても、マンションの階下のテナントにある中華料理屋から、ゴキブリが侵入してきたというのだ。たしかに飲食店でのゴキブリ対策は永遠の課題であろう。

こうして引っ越しを余儀なくされたYさんであるが、ゴキブリを大量発生させた中華料理店に対して、引っ越し費用の賠償慰謝料を求めることはできるのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。

分譲マンションの場合、所有者に管理義務がある

「もし住んでいたのが、分譲マンションなど『マンション法』の対象となる建物だったら、この法律にもとづいて、さまざまな請求ができます。同法は6条1項で『建物の管理・使用に関して、他の所有者の共同利益に反する行為をしない義務』を所有者に課しています。この義務は賃借人にも適用されます(6条3項)。

もしこの義務に違反した場合、マンション法57条〜60条によって、行為の停止の請求、専有部分の使用禁止請求、競売請求、占有者に対する契約解除・引渡請求などの厳しい手段が認められています」

――では、それには当てはまらない一般的な賃貸マンションだったら?

「『不法行為』(民法第709条、710条)を法的根拠にして、損害賠償を請求することが考えられるでしょう。不法行為の要件にあてはまれば、損害賠償請求が可能になります」

――要件にあてはまるためには、どういう条件があるのだろうか。

「不法行為の要件にあてはまるというのは、一般的には次にあげる4つの条件をすべて満たしている状態のことです。

(1)加害者に故意、または過失がある

(2)違法性がある

(3)損害が発生している

(4)加害者の行為と被害者の損害との間に因果関係がある」

――今回のケースはだと、(1)の故意、過失は?

「中華料理店が十分な駆除対策をしていなければ、少なくとも『過失がある』とされるでしょう。立証という観点からは、中華料理店に駆除対策を採らせるために、文書でハッキリと苦情を言っておいて、証拠を残しておくことが肝心です」

――(2)の違法性については?

「ゴキブリの発生量等が、周囲の住人にとって、がまんすべき範囲(受忍限度)を超えているかどうかが問題となります。数匹程度のゴキブリが発生しても、それは受忍限度内だと判断されるでしょう。受忍限度を超えると判断されるためには、数十匹を超えるくらい大量発生している必要があると思われます(写真やビデオを撮っておきましょう)。

ただし、もしYさんが、階下に中華料理店があるのを承知で引っ越してきた場合には、不法行為は成立しにくくなります。これは『危険への接近の法理』と言われ、自ら進んで危険なもの(ゴキブリが発生する可能性が高い中華料理店)に接近した場合には、不法行為が成立しにくくなるという考え方です」

――(3)の損害の発生は?

「Yさんの部屋での駆除費用(薬剤や駆除業者の費用など)は、発生した損害に含まれそうです(領収証をなくさないように)。しかし、引っ越し代金や慰謝料までは『引っ越しをするのが通常』と判断されるような、酷い状況でなければ難しいかもしれません」

――(4)因果関係は?

「実は、これもなかなか判断しにくそうです。Yさんの部屋にいるゴキブリが本当はどこから来たのか? ゴキブリが教えてくれるわけでもありませんし、同じ建物に他の飲食店があれば、ますますわかりません(複数の原因があり得る場合には、民法第719条の共同不法行為を検討します)。本当に訴訟を起こすとなれば、決め打ちで『他には考えられない!』と言って、責任追及するということになりそうです」

――結論として、Yさんは訴えるべき?

「ケースバイケースですが、住んでいたのが一般的な賃貸マンションだったら、裁判をして割に合うケースとは言えなさそうです。そもそものアドバイスとしては『飲食店が近くにあるマンションには入居しないこと』が先決だと申し上げておきます。本当は『ゴキブリに負けない図太さ』を身につけるのが一番なのですが・・・・。無理ですかね!?」

(弁護士ドットコムニュース)

夏になると活動が活発になるゴキブリ。どれだけ駆除しようとも、どこからともなくあの黒い影が姿を現すから不思議だ。

編集者のYさん(男性)はゴキブリが大の苦手。夏が近づくと、先手を打ってゴキブリ駆除に乗り出すのが、この季節の恒例行事だという。

このYさん、去年の秋に引っ越しをしているのだが、その理由もゴキブリだった。自分でどんなに頑張って駆除しても、マンションの階下のテナントにある中華料理屋から、ゴキブリが侵入してきたというのだ。たしかに飲食店でのゴキブリ対策は永遠の課題であろう。

こうして引っ越しを余儀なくされたYさんであるが、ゴキブリを大量発生させた中華料理店に対して、引っ越し費用の賠償慰謝料を求めることはできるのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。

分譲マンションの場合、所有者に管理義務がある

「もし住んでいたのが、分譲マンションなど『マンション法』の対象となる建物だったら、この法律にもとづいて、さまざまな請求ができます。同法は6条1項で『建物の管理・使用に関して、他の所有者の共同利益に反する行為をしない義務』を所有者に課しています。この義務は賃借人にも適用されます(6条3項)。

もしこの義務に違反した場合、マンション法57条〜60条によって、行為の停止の請求、専有部分の使用禁止請求、競売請求、占有者に対する契約解除・引渡請求などの厳しい手段が認められています」

――では、それには当てはまらない一般的な賃貸マンションだったら?

「『不法行為』(民法第709条、710条)を法的根拠にして、損害賠償を請求することが考えられるでしょう。不法行為の要件にあてはまれば、損害賠償請求が可能になります」

――要件にあてはまるためには、どういう条件があるのだろうか。

「不法行為の要件にあてはまるというのは、一般的には次にあげる4つの条件をすべて満たしている状態のことです。

(1)加害者に故意、または過失がある

(2)違法性がある

(3)損害が発生している

(4)加害者の行為と被害者の損害との間に因果関係がある」

――今回のケースはだと、(1)の故意、過失は?

「中華料理店が十分な駆除対策をしていなければ、少なくとも『過失がある』とされるでしょう。立証という観点からは、中華料理店に駆除対策を採らせるために、文書でハッキリと苦情を言っておいて、証拠を残しておくことが肝心です」

――(2)の違法性については?

「ゴキブリの発生量等が、周囲の住人にとって、がまんすべき範囲(受忍限度)を超えているかどうかが問題となります。数匹程度のゴキブリが発生しても、それは受忍限度内だと判断されるでしょう。受忍限度を超えると判断されるためには、数十匹を超えるくらい大量発生している必要があると思われます(写真やビデオを撮っておきましょう)。

ただし、もしYさんが、階下に中華料理店があるのを承知で引っ越してきた場合には、不法行為は成立しにくくなります。これは『危険への接近の法理』と言われ、自ら進んで危険なもの(ゴキブリが発生する可能性が高い中華料理店)に接近した場合には、不法行為が成立しにくくなるという考え方です」

――(3)の損害の発生は?

「Yさんの部屋での駆除費用(薬剤や駆除業者の費用など)は、発生した損害に含まれそうです(領収証をなくさないように)。しかし、引っ越し代金や慰謝料までは『引っ越しをするのが通常』と判断されるような、酷い状況でなければ難しいかもしれません」

――(4)因果関係は?

「実は、これもなかなか判断しにくそうです。Yさんの部屋にいるゴキブリが本当はどこから来たのか? ゴキブリが教えてくれるわけでもありませんし、同じ建物に他の飲食店があれば、ますますわかりません(複数の原因があり得る場合には、民法第719条の共同不法行為を検討します)。本当に訴訟を起こすとなれば、決め打ちで『他には考えられない!』と言って、責任追及するということになりそうです」

――結論として、Yさんは訴えるべき?

「ケースバイケースですが、住んでいたのが一般的な賃貸マンションだったら、裁判をして割に合うケースとは言えなさそうです。そもそものアドバイスとしては『飲食店が近くにあるマンションには入居しないこと』が先決だと申し上げておきます。本当は『ゴキブリに負けない図太さ』を身につけるのが一番なのですが・・・・。無理ですかね!?」

(弁護士ドットコムニュース)

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