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借金ありの親が遺した「形見」や「ペット」…引き取ったら相続放棄できなくなる?
2016年12月11日 00時00分

故人が残したプラスの財産もマイナスの財産も、全て手放すという意思表示が「相続放棄」です。亡くなった父親に借金があり、相続放棄を考えている男性が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに質問を寄せました。

男性によると、父親からは「形見」として服と財布をもらっており、その事実は親戚にも伝わっているそうです。「もちろんその二つ以外の財産には手を出していません」というものの、形見をもらってしまった以上、相続放棄はできないのか?と疑問を抱いています。

貯金や土地、借金などは「財産」としてイメージしやすいですが、形見としてもらった故人の持ち物も「財産」だと考えられるのでしょうか?形見をもらった以上、相続放棄はできないのでしょうか?鈴木克巳弁護士の解説をお届けします。

故人が残したプラスの財産もマイナスの財産も、全て手放すという意思表示が「相続放棄」です。亡くなった父親に借金があり、相続放棄を考えている男性が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに質問を寄せました。

男性によると、父親からは「形見」として服と財布をもらっており、その事実は親戚にも伝わっているそうです。「もちろんその二つ以外の財産には手を出していません」というものの、形見をもらってしまった以上、相続放棄はできないのか?と疑問を抱いています。

貯金や土地、借金などは「財産」としてイメージしやすいですが、形見としてもらった故人の持ち物も「財産」だと考えられるのでしょうか?形見をもらった以上、相続放棄はできないのでしょうか?鈴木克巳弁護士の解説をお届けします。

● 金銭的価値がなければ「財産」にはあたらない

相続財産の一部または全部を売買、贈与、損壊するなど「相続財産の処分」(民法921条1項)をした場合、マイナスの財産も含めて全て相続するという「法定単純承認行為」をしたとみなされ、相続放棄ができなくなります。

まずは今回、男性がお父様から形見としてもらった服と財布が「財産」なのかどうか、考えてみましょう。財産とは「金銭的な価値のあるもの」ですから、服と財布が財産(遺産)か否かを考える上でも、金銭的価値があるかどうか、という観点から判断します。

亡くなったお父様の服と財布は、遺族の方々からしてみれば大事な思い出の品として主観的価値があるものの、ほとんどの場合は、客観的価値(市場性・換価価値)は存在しないといえるでしょう。

客観的価値が存在しない物品は財産(遺産)とは評価されません。したがって、お父様の形見の服と財布を取得したとしても、「相続財産の処分」には該当せず、相続放棄をすることができます。

● 「新品同様の高級ブランド品」をもらった場合は話が別

「形見分け」とは、個人を偲ぶよすがとなる遺品を分配することを意味する言葉ですが、遺産分割の対象となる、財産的価値のある物品との対比としても使用されることがあります。したがって、通常は、形見分けの類の品を取得しても、相続放棄は可能です。

しかし、服と財布が新品同様の高級ブランド品というように、財産的価値があるもの(宝石なども同様に考えられます)を取得した場合は、「法定単純承認行為」となり、相続放棄はできません。

たとえ、財産的価値のある物を捨てたり、他の相続人に譲るなどして手放したとしても、その行為自体が「相続財産の処分」に該りますので、相続放棄はできなくなります。

参考までに、次の2件の下級審判決(いずれも東京地裁)を紹介しておきます。

(1)甲が、自分が使えるようなステレオや衣服類のほか小銭数百円、残高のほとんどない預金通帳数冊を持ち帰った事案で、裁判所は、甲が取得した財産も、形見分け程度の品にすぎず、これをもって法定単純承認にあたる財産処分と認めることはできないとして、甲の相続放棄申述受理は有効であると判断しました。(東京地裁平成10年(ワ)第27133号同12年9月20日判決)

(2)乙は、相続放棄後、1度目は、スーツなどの一部、六畳間の洋服だんすに保管されていた毛皮のコート3着とカシミア製のコート3着、下駄箱に保管されていた靴の一部及び絨毯を持ち帰り、2度目は、運送業者2名を手配し、鏡台、残っていた洋服、靴のほとんどすべてを持ち帰ったという事案で、乙の行った行為は、相続放棄後の相続財産の隠匿(民法921条3項の法定単純承認行為)にあたると判断しました。(東京地裁平成11年(レ)第345号同12年3月21日判決)

2番目に挙げたのは、相続放棄後の隠匿の該当性について判断した判決ですが、相続放棄前の処分にあたるか否かについての判断要素を考える上でも、非常に参考になる判決かと思います。

● 故人の「ペット」、引き取ったら相続放棄はできない?

ところで、今回のケースとは異なりますが、故人が飼っていた「ペット」は、財産だと考えるべきなのでしょうか?相続放棄を予定している人を仮にA氏として考えてみましょう。

結論から申し上げると、ペットには財産的価値があり、遺産(相続財産)であると評価され、いわゆる「形見分け」の類には属さないと考えられます。

したがって、形式的法理論上は(杓子定規な考え方を貫けば)、ペットを取得してしまった以上は、相続放棄ができないということになるのかもしれません。しかしそれでは、相続放棄を予定しているA氏以外に誰もペットの引き取り手がいないような場合、A氏のみならず、ペットも気の毒です。

現実問題として、家庭裁判所においては、相続放棄の申述受理にあたってそこまで厳しく審査はしませんし、債権者が、A氏はペットを取得したからA氏の相続放棄は無効だとして争ってくることも考えにくいです。仮に争ってきたとしても、通常裁判所(債権者との争いの場は家庭裁判所ではありません)はA氏の相続放棄を認める判決を下すのではないでしょうか。

相続放棄をしない方が、あるいは相続人ではない方がペットを引き取るのがベストな解決であることは間違いないのですが、A氏が引き取るしかないというような事案の場合は、A氏の相続放棄を認めるべきだというのが私の見解です。

(弁護士ドットコムライフ)

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