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看護学校の"ハラスメント実態"「同級生全員の前で激詰め」「教官から堕胎勧告された」 当事者の家族らうったえ
2024年02月29日 10時13分

看護学校でハラスメントを受けたとうったえている当事者の家族が今年1月、国による調査や指導ができる環境整備をもとめる要望書とオンライン署名3万3000筆を岸田文雄首相ら宛に提出。その後、記者会見を開いて、看護学校の指導のあり方について改善をもとめた。看護学校におけるハラスメントは社会問題化しており、看護学生が自殺に至るケースもある。改めて要望書の内容や会見で取り上げた調査内容を振り返る。(ライター・渋井哲也)

看護学校でハラスメントを受けたとうったえている当事者の家族が今年1月、国による調査や指導ができる環境整備をもとめる要望書とオンライン署名3万3000筆を岸田文雄首相ら宛に提出。その後、記者会見を開いて、看護学校の指導のあり方について改善をもとめた。看護学校におけるハラスメントは社会問題化しており、看護学生が自殺に至るケースもある。改めて要望書の内容や会見で取り上げた調査内容を振り返る。(ライター・渋井哲也)

●看護学校入学直後からハラスメント指導を受けるようになった男性

要望書は(1)看護学校教職員およびその長、実習先の医療関係者に対し、学生への合理的配慮や安全配慮義務、ハラスメント予防に関する研修の受講を義務付け、加害者を生まない対策を取る(2)問題が生じた場合の第三者調査委員会には、加害の可能性のある組織側の都合で雇われた人選ではなく、被害者側の意見も考慮し、独立した第三者委員会の調査により事実確認がなされること――など8項目をもとめている。

提出したのは、看護学校を中退した男性の母親だ。男性は2020年4月に看護学校へ入学したが、直後からハラスメント指導を受けるようになり、同級生などからも罵られるようになったという。母親が要望書を提出するのは、今回が2度目である。

「息子は2020年4月下旬にハラスメントを伴う指導を受けました。課題レポートの内容が理解しづらいものだったため、できる範囲で提出しました。レポート返却時、一人ひとり教壇の前に呼び出されて、同級生全員の前で『指示した内容と違うよね。これはレポートじゃない。できていないのは誰の責任なのか?』と問い詰められ、再提出を指示されました。しかし、レポートの改善指導はされず、プライベートな人間関係についても批判されました。

この出来事で、自己肯定感が大きく損なわれることになりました。そして2021年5月下旬、(実習中の)シーツ交換の際、『ゴミ』『カス』などと、同級生からも屈辱的な発言をされました。先輩たちからも一緒にバカにされて、息子の自尊心は失われていきました。『家から飛び出して死にたいと思った』と後になって話をしてくれました」(母親)

学校側に抗議したが、「そのような発言をした覚えはないが、そう捉えられてしまったのなら謝りたい」と言われたという。屈辱的な発言をした学生への指導については、学校側は「そういう学生と一緒にグループ練習(ワーク)をすることを選んだあなたの責任です」と断言したという。

しかし、母親はこれらの発言が役職者によるセカンド・ハラスメントであると後で気づいた。看護学校の設置者である自治体にもうったえたが、学校側の裁量権を理由に「何も助けてくれませんでした」(母親)。

●教員から勧告されて「堕胎」した社会人入学の学生

今回の要望書のベースになったのは、母親が署名サイト「Change.org」と共同でおこなった調査(2022年11月12日〜30日実施/回答者数74人、有効回答数67件)だ。

これによると、北海道から沖縄まで21の自治体に住む人から被害報告があった。過去5年の事例として25件。社会人入学の学生からは「教員から勧告されて堕胎した」というマタニティ・ハラスメントのケースも寄せられた。また、半数以上の36件は、実習先でのハラスメント。さらに、相談したという55件のうち26件が不利益な対応などで、相談窓口が機能しているかが疑問になっている。

ちなみに文科省の担当者からは、大学については、ハラスメント窓口の設置率が100%で、うち常設されているのは65%であることが示されたという。しかし、実習先(病院)で相談できるかどうかは不明ということだった。

●実習先の病院が見える橋から飛び降りた男性

画像タイトル 高橋裕樹さん(左から1人目/渋井哲也撮影)

この会見には、2022年7月に自殺した看護学生の父親、高橋裕樹さんも同席した。高橋さんは、息子が亡くなったあと、看護学生からパワハラ相談などを受ける「全国看護学生はぐくみネット」を作り、実態調査(2023年4月30日〜2024年1月10日/回答数331件)を実施している。

この調査によると、発生場所は「実習先」(167件、50%)、「学校生活の中」(151件、46%)だった。行為者は「教員」259件、72%)、「実習指導者」(67件、19%)などだった。また、被害の影響としては「精神的苦痛」(41件)、「うつ病」(37件)、「睡眠障害・不眠」(25件)、「自殺未遂・自殺企図・希死念慮」(18件)などだ。

「息子は2022年7月、実習期間、それも実習をおこなっている時間中、実習先の病院が目の前に見える橋から飛び降りて自ら命を絶ちました。このころ、息子のツイッター(現:X)には<全人格を否定された><飛び降りるなら今!>などの投稿がされていました。

息子の死を私はツイッターで書き込みました。すると、看護学校でハラスメントを受けたという方々から次々に返信が来ました。"私も電車に飛び込めば実習に行かなくて済むと思っていました"という内容もありました。実習に苦しむ多くの看護学生の存在を知り、看護学校における教育の問題を知りました」(高橋さん)

高橋さんの息子は岐阜県立の看護専門学校に通っていた。2022年9月、岐阜県独自の調査で「ハラスメントはなかった」という結果が出た。「教員の指導は必要かつ相当な範囲を超えることのないものだった」と結論付けていた。

「別の県立の看護学校でも、教員の指導により精神疾患を発症し、退学に追い込まれた学生さんがいます。その方はハラスメントがあったとうったえました。 やはり、県の調査では息子と同様の結果を出しました。これから入学する看護学生が、息子と同じように精神的に追い込まれて自殺することを容認するということなのではないか。これ以上、息子のような被害者を生み出さないようにしていきたい」(高橋さん)

●「ガイドラインをもう少し厳しくしてほしい」

前回の要望書提出後、「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」の一部が改正された。その中にある「教員などに関する事項」で、「学生の生活やハラスメント等に対する相談、カウンセリング等を行う者が定められ、当該者が必要な支援を受けられる体制の確保等の工夫を講じることが望ましいこと」と改められた。

さらに、「看護師等養成所内のハラスメント防止に必要な体制を整備することが望ましい」という文言も加わった。しかし、あくまでも「望ましい」であり、義務ではない。要望書を提出した母親は次のように述べて、唇を噛んだ。

「本当に残念です。ガイドラインをもう少し厳しくしてほしい。都道府県の担当者の意識が少し変わったというようなことを(文科省の)担当者の方がおっしゃっています。効果はあったと思いますが、まだまだハラスメントが絶えず、浸透していないように思います」

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