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年俸制なら残業代ナシ? 「年俸1700万円」医師の裁判から考える残業代ゼロの論点
2017年06月18日 10時06分

年俸1700万円で働いていた男性外科医が、残業代の未払いを主張して病院側と争っている。契約段階では、残業代込みで合意があったといい、合意と労働関連法規のどちらが優先されるかが争点だ。一、二審は残業代込みと判断。医師側が上告し、7月7日に最高裁の判決が言い渡される。弁論が開かれたため、医師側の逆転勝訴となる可能性が高い。

報道などによると、この医師には、「午後9時以降か休日の必要不可欠な業務」以外には残業代が支払われていなかった。医師は2012年9月に解雇されており、解雇無効や未払い賃金の支払いを求めて裁判を起こしている。

年俸1700万円で働いていた男性外科医が、残業代の未払いを主張して病院側と争っている。契約段階では、残業代込みで合意があったといい、合意と労働関連法規のどちらが優先されるかが争点だ。一、二審は残業代込みと判断。医師側が上告し、7月7日に最高裁の判決が言い渡される。弁論が開かれたため、医師側の逆転勝訴となる可能性が高い。

報道などによると、この医師には、「午後9時以降か休日の必要不可欠な業務」以外には残業代が支払われていなかった。医師は2012年9月に解雇されており、解雇無効や未払い賃金の支払いを求めて裁判を起こしている。

●柔軟な運用求める病院側に対し、医師は過労防止のため厳格運用を要求

病院側は、医師には自由裁量が与えられているため、すべてを労働時間とするのは実態に反すると主張。労働法の厳格適用が、労働者を独立事業者として扱うような企業の規制逃れを誘発しているとして、業種や個人の実態に則した柔軟な運用が必要だと訴えた。

対する医師側は、出勤時間や外来診療の時間が明確に定められており、勤務時間について自由裁量はなかったと反論。医師の過重労働を防ぐためにも、残業代は明確に区別すべきだと主張している。

一般に年俸と残業代の関係はどうなっているのだろうか。また、今回の裁判をどのように理解したら良いのだろうか。中村新弁護士に聞いた。

●勤務医には「専門業務型裁量労働制」を適用できない

ーー法律で年俸制はどう規定されている?

誤解されがちですが、年俸制で労働契約を結んだ場合でも、契約した年俸額に残業代(時間外勤務手当、休日手当)をただちに含めることができるわけではありません。

法定労働時間を定めた労働基準法32条は、年俸制の場合でも適用されるので、単に「年額何百万円」という取り決めしかないのであれば、年俸以外に残業代を支払う必要があります。

ーーでは、年俸制で残業代を払わないのはすべて違法ということ?

そうではありません。年俸などの給与に残業代を事実上組み込む際に会社が取り得る主な手立てとしては、(1)専門業務型裁量労働制、(2)固定残業代制が挙げられます。

(1)専門業務型裁量労働制は一定の専門的業務について、労使協定で定めた時間分の労働をしたとみなす制度です(労基法38条の3)。採用すれば、通常の時間外勤務手当を支払う必要はなくなります。ただし、深夜勤務・休日勤務が発生した場合、深夜手当や休日手当は支払わなくてはなりません。

対象となり得る業務は、仕事のやり方を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者が時間配分などについて具体的な指示をすることが困難なもので、厚生労働省令で限定列挙されています(労働基準法施行規則24条の2の2第2項6号)。代表的なものとしては、大学の教授研究職、弁護士・公認会計士などの専門職が挙げられます。しかし、本件のような勤務医は対象とされていません。

ーー固定残業代制とはどう違う?

(2)固定残業代制は、給与の一部に一定の残業代を組み込むもので、専門業務型裁量労働制と違って業種の制限はありません。事務負担の軽減などを目的に採用する会社も増えていますが、判例上、通常の労働時間の賃金部分と残業代に相当する部分とを明確に区別した合意が労使間でなされていることが有効要件とされています。

したがって、単に「基本給には残業代を含むものとする」と就業規則に書いただけでは無効となります。有効にするためには、給与のうち「××手当は月額(あるいは年額)△△時間分の時間外手当・深夜手当・休日手当を含む」という形で就業規則もしくは賃金規程に明記することが必要です。また、固定分を超過した場合にはきちんと超過分の残業代を支払わなくてはなりません。

●今回の裁判はむしろ一、二審が特殊ケースだった

ーー今回の医師のケースは、どう捉えられるのか?

今回の事例では、勤務医は対象外の業務のため、専門業務型裁量労働制は採用できません。また、固定残業代制の有効要件である時間外労働部分の明白区分性も認められません。にもかかわらず、一審、控訴審とも残業代請求の大半を認めなかったという点で特殊なものです。

判決の理由としては、(1)原告医師の勤務先である病院の時間外規程において「時間外手当は21時以降翌日8時30分までの間と休日の緊急業務についてのみ認められる」と明記されていること、(2)医師の職務と責任に照らせばこのような時間外規程も認められ得ること、(3)年俸が1700万円と高額であったことなどが挙げられていました。

しかし、最高裁が弁論を開く際には原判決が見直されることが多いので、一審及び控訴審の判断は最高裁で見直される可能性が高いと思われます。

医師という職業の特殊性や、年俸そのものが高額であることから、一審・控訴審の判断が適切であると考える方も多いでしょう。しかし、使用者である病院としては、有効要件を具備した固定残業代制を採用し、適切な勤務時間管理を行っていれば、予想外の残業代請求を防ぐことができたわけです。

また、適切な労務管理を行うことにより、労働環境の悪化にも一定の歯止めをかけることもできます。労働法規や労働判例の勘所を押さえた労務管理の重要性を感じさせる事例だというのが当職の正直な感想です。

(弁護士ドットコムニュース)

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