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旧統一教会の被害、忘れては繰り返される現実 母の入信描いた映画、15年ぶりの上映
2023年01月10日 13時50分
#旧統一教会問題

「信者は"普通"の方たちです。信仰心が厚いとか、意志が弱いとかではない。悩んだり困ったりして心が弱ったとき、カルトはふっと入ってくる。誰の身にも起こり得るんです」

京都市の映像作家土居哲真さん(47歳)は2004年、母親が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に入信していることを知り、カメラを回した。母はなぜ救いを求めたのか、カルトとは何なのか。家族と向き合い、専門家への取材を通して答えを探していく過程が描かれる。

2007年に公開された映画「belief」が、再び東京と横浜で上映される。15年も前の記録なのに、登場する弁護士や心理学者は今も同じ面々だ。そして解決への道がはっきりと見えぬまま議論が続いていることが、統一教会問題の根深さをあぶり出す。

「信者は"普通"の方たちです。信仰心が厚いとか、意志が弱いとかではない。悩んだり困ったりして心が弱ったとき、カルトはふっと入ってくる。誰の身にも起こり得るんです」

京都市の映像作家土居哲真さん(47歳)は2004年、母親が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に入信していることを知り、カメラを回した。母はなぜ救いを求めたのか、カルトとは何なのか。家族と向き合い、専門家への取材を通して答えを探していく過程が描かれる。

2007年に公開された映画「belief」が、再び東京と横浜で上映される。15年も前の記録なのに、登場する弁護士や心理学者は今も同じ面々だ。そして解決への道がはっきりと見えぬまま議論が続いていることが、統一教会問題の根深さをあぶり出す。

●再上映を決意した理由

土居さんにとって再上映は当初、ブームに乗るようで嫌だったという。公開後は自身も関心を払ってこなかったという自責の念もあった。安倍晋三元首相を銃撃したとされる山上徹也被疑者の家庭環境を報道で聞くにつけ「あまりにも悲しく、映画を売り込もうという気にはなれませんでした」。

しかし、15年前に上映した名古屋の映画館から声がかかり、思い直す。

「当時も今も、第一線で研究されている方たちの映像記録です。観たいという方には、観ていただきたいと考えました」

特にカルト問題にいち早く取り組み、先鞭をつけた聖書学者である浅見定雄・東北学院大名誉教授のインタビューは貴重だ。当時、何度も手紙を書いて、取材にこぎ着けたのだという。他にも全国霊感商法対策弁護士連絡会の山口広弁護士、マインド・コントロール研究の権威パスカル・ズィヴィーさん、心理学者の西田公昭・立正大教授らが登場する。

既に2022年には京都・名古屋で上映された。

●知ることから始めた制作の3年間

「母の場合は、電話で『神』という言葉を口にしたり、高麗人参茶が送られてきたりしたことで気づきました。すぐに弁護士に相談するなどして脱会や返金ができましたが、それで終わりという問題ではないと調べ続け、映画にすることにしました」

当時大学院生だった土居さんは、制作にかけた3年間で旧統一教会に関する本を読み続けた。最初に手に取ったのは、教祖である文鮮明氏の教えが書かれた『原理講論』。母を勧誘した現役信者とも話し、直接話を聞きたいと思った学者や弁護士に会いに行った。

「母の悩みの一つが、私が大学を留年し、うつ状態になったことでした。2000万円ほど献金していました。これは自分の問題だ、引き受けないといけないと思った。罪の意識がありました。まずは知ること。だから『原理講論』も読まなければならなかったんです」

大学時代から自主映画を撮っていた土居さんは、実家に帰ると同時に母にカメラを向けた。

「カメラを介すと、いろいろ話を聞き出すことができました。カメラが無ければ腹を割って話をすることができなかったかもしれません。自分が撮っているのに、自分が映されているような不思議な感覚でした」

●親子の何でもない日常が伝えること

映画の中で印象的なシーンの一つに、土居さんと母親の電話の様子がある。不調を訴える息子に「大丈夫よ、てっちゃん」と繰り返す母親。離れて暮らす親子なら、誰でも交わしたことのあるようなやりとりだ。

「カルトは転換期をターゲットにすると言われます。どんな人でも、いつも元気で強いわけでなく、心が弱る時があります。そのタイミングにふっと入ってくる」

撮影を通じて旧統一教会など破壊的カルト(絶対的な教祖への信仰によって人権侵害などが行われる集団)への理解を深めた土居さん。名称変更や文鮮明氏の死去などで教会は弱体化していると思っていたが、2022年に銃撃事件が起きた。

「もう終わった問題だという認識でした。まだ高額献金が行われているという事実に非常に驚きました。山上被疑者のお母様も、うちと同じ“普通”の主婦だったんじゃないかなと思います。うちも発見が1年遅れたら家がなくなっていたかもしれない」

合同結婚式などで騒がれたのが1992年、その15年後に映画が公開された。土居さんは当時も「とっくに昔の問題だ」と思って取り組んだが、被害は続いていた。そして、またその15年後、やはり問題は終わっておらず再上映となった。

「今が変えるチャンスだと思います。放っておくと、みんなまた忘れていきます」。映画「belief」の62分間は、その現実を映し出している。

【上映スケジュール】
東京ボランティア・市民活動センター(監督のトークあり)
・1月12日午後7時(午後6時半開場)
・参加費:500円(介助者は無料/予約不要/先着80名迄)
・問い合わせ:ビデオアクト上映プロジェクトjyouei@videoact.jp
横浜シネマリン 1月14日〜1月20日午前10時〜(14日は上映後に監督のオンライン挨拶あり)

【監督プロフィール】 土居哲真(どい・てつま) 1975年広島市生まれ。京都大学文学部美学美術史学専修卒業。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了。 ツイッター:@tetuma

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