4244.jpg
ネットあるある、迷惑行為を撮影→SNSに晒しあげ 法的リスクを徹底検証
2018年08月28日 09時33分

公共の場でのトラブルで「揉め事の相手に顔を撮影されてしまった」との相談が、弁護士ドットコムに複数、寄せられています。

ある人は、部活の試合帰りに高校生の子どもを撮影されました。「5~6人が座席に座り談笑していると端に座っていた40代くらいの男性がスマホをかざし座っている部員たちを撮影していた」といいます。

「当時 2~3人の部員が騒いでいたようで、その様子を撮影していたのではないかと思われます。おそらくネットにアップすることが目的」と心配している様子です。

ネット上にはトラブルの場面を顔が判別できる状態で撮った動画が多数、投稿されています。相談者が心配するのも、もっともでしょう。

相手の承諾も得ず、トラブル相手の顔写真や動画を撮影する行為に、法的な問題はないのでしょうか。また、その写真や動画がインターネット上にアップロードされてしまった場合は、どのような措置を取れば良いのでしょうか。服部啓一郎弁護士に詳しく聞きました。

公共の場でのトラブルで「揉め事の相手に顔を撮影されてしまった」との相談が、弁護士ドットコムに複数、寄せられています。

ある人は、部活の試合帰りに高校生の子どもを撮影されました。「5~6人が座席に座り談笑していると端に座っていた40代くらいの男性がスマホをかざし座っている部員たちを撮影していた」といいます。

「当時 2~3人の部員が騒いでいたようで、その様子を撮影していたのではないかと思われます。おそらくネットにアップすることが目的」と心配している様子です。

ネット上にはトラブルの場面を顔が判別できる状態で撮った動画が多数、投稿されています。相談者が心配するのも、もっともでしょう。

相手の承諾も得ず、トラブル相手の顔写真や動画を撮影する行為に、法的な問題はないのでしょうか。また、その写真や動画がインターネット上にアップロードされてしまった場合は、どのような措置を取れば良いのでしょうか。服部啓一郎弁護士に詳しく聞きました。

●刑法には「盗撮罪」はない

電車の座席にいる人の顔を盗撮することは、犯罪になるのでしょうか。

「電車の座席にいる人の顔を盗撮したとしても、基本的に犯罪になりません。

まず、日本の刑法には『盗撮罪』はありません。また、軽犯罪法では『他人が通常衣服を着けないでいる場所をのぞき見る』行為を処罰していますが(同法1条23号)、電車の座席に対する撮影は該当しません。

なお、軽犯罪法では『公共の乗物で乗客に対し著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける』行為を処罰しています(同法1条5号)。しかし、制止を振り切って顔を撮影したのであればともかく、ひそかに顔を撮影するのはこれに該当しないでしょう」

●「迷惑防止条例」に違反しない?

盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例違反になると聞いたことがあります。電車内で人の顔を盗撮する行為は、迷惑防止条例に違反しませんか。

「確かに、迷惑防止条例では一定の盗撮を犯罪としていますが、人の性的羞恥心を害するような行為であることが前提です。規制内容は都道府県で多少異なるものの、たとえば、東京都の『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』では、

(1)通常衣服の全部または一部を着けない状態でいる場所、または公共の場所、公共の乗物等において、

(2) 通常衣服に隠されている下着または身体を、

(3)撮影し、または撮影目的で写真機等を差し向け、もしくは設置する

行為が処罰されます(同条例5条1項2号、8条1項2号、同条2項1号)。

電車の座席にいる人の顔を盗撮しただけであれば、通常衣服に隠されている下着や身体を撮影したわけではないので、迷惑防止条例に違反しません。

また、迷惑防止条例では『公共の場所や公共の乗物での卑わいな言動』も処罰していることが多いです。

ズボンを履いた女性の背後から、お尻を中心として11回撮影した行為が、卑わいな言動に該当し、北海道の迷惑防止条例に違反するとされた事件もあります(最高裁判所平成20年11月10日判決、刑集62巻10号2853頁)。

しかし、質問のケースは、人に性的羞恥心を与えるものではないので、卑わいな言動にも該当しません」

●犯罪ではなくても「肖像権」の問題は?

撮影する必要もないのに見知らぬ人から撮影されたら、恐怖を感じてしまいそうです。電車内で顔を無断撮影しても、違法行為とは言えないのでしょうか。

「顔の無断撮影が犯罪ではないとしても、『肖像権』の侵害で民事上違法になる可能性があります。撮影された高校生が、損害賠償や写真・動画の公表の差止めを請求できる可能性はあります。

まず、具体的な法律はありませんが、人にはその肖像(容ぼう、姿態等)をみだりに撮影されない権利があります(最高裁大法廷昭和44年12月24日判決・刑集23巻12号1625頁)。これを肖像権といいます。

他人の肖像を無断撮影しても、ただちに違法とはなりません。その撮影が、撮影された人にとって社会生活上受忍すべき限度を超えた場合に、違法となります。

社会生活上の受忍限度を超えたかどうかは、被撮影者の社会的地位、活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合的に判断します(最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁)」

●顔の無断撮影が常に違法というわけではない

今回のケースではどうでしょうか。

「高校生らが高い社会的地位を有するとはいえず、その活動に対する関心も高くありません。公共の乗物内で顔を盗撮した点も問題であり、無断撮影が違法と評価される可能性もあります。

しかし、高校生らのうち2~3人が騒いでいたということであり、他の乗客は迷惑していたと考えられます。もちろん、撮影する前に、その場で注意したり、駅員に通報するのが適切ですが、約20名の高校生が隣にいる状況では、面と向かって注意するのに気後れするかもしれません。

そうすると、後で駅員に通報したり、学校に抗議するための証拠として、騒いでいた高校生を撮影したのであれば、ただちに違法とはいえないと考えられます。他方、顔をアップしてさらし者にする目的で撮影したのであれば、肖像権侵害で違法になる可能性が高いと思われます。

ただし、撮影した中でも、顔がはっきり映っておらず、人物を特定できない人との関係では、肖像権侵害にならない可能性が高いです。また、撮影のターゲットではなく偶然映り込んでしまった人との関係でも、違法性が否定される余地はあります」

●写真は動画がアップされた場合は?

無断撮影された顔の写真や動画がアップされた場合、高校生たちはどのような請求ができるのでしょうか。

「顔の写真や動画をインターネット上でアップされた場合、悪影響が大きいため、損害賠償や公表の差止めができる可能性は高くなります。

肖像権は、みだりに肖像を公開されない権利も含んでいます。仮に、撮影自体は違法ではなかったとしても、撮影された顔がアップされれば、高校生らが、不特定の第三者から中傷されるおそれがあります。

他の乗客へ迷惑をかけたからといって、中傷されても仕方ないとはいえないでしょう。また、20歳未満の少年は、たとえ犯罪をした場合でも、その氏名や容ぼう等を推知させる報道が禁止されています(少年法61条)。

したがって、無断撮影された顔の写真や動画がアップされた場合、高校生らが肖像権侵害を根拠に、損害賠償や公表差止めを請求できる可能性は十分あります。

なお、肖像権の一種として、自己の氏名や肖像を他人に無断で利用されない権利を「パブリシティ権」と言います(最高裁平成24年2月2日判決・民集66巻2号89頁)。しかし、パブリシティ権の侵害は、氏名や肖像が顧客誘引力を発揮し、商業的価値を有する場合に認められます。著名人でない高校生らの肖像をアップしても、ただちにパブリシティ権侵害とはいえません」

顔の写真や動画がアップされた場合、肖像権以外にも主張できる権利はありますか。

「『名誉権』や『プライバシー権』の侵害も主張できる可能性があります。まず、人の社会的評価を低下させる事実を公表した場合、名誉権侵害(名誉毀損)になります。

また、私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれがあり、通常公開を欲しないと認められ、未だ他の一般人に知られていない情報(プライバシー情報)をみだりに公開すると、プライバシー権侵害となります。

もっとも、名誉毀損は常に違法となるわけではなく、公共の利害に関する事項について公益を図る目的で真実を公表した場合は、違法とはなりません。また、プライバシー侵害についても、プライバシー情報を公表する利益が上回ると判断されれば、違法となりません」

では今回のケースではどうでしょうか。

「顔写真をアップされただけでは、名誉権やプライバシー権を侵害されたとは言い切れませんが、『●●高校の生徒が騒いでいる』といった具体的な説明もアップされた場合は、名誉権やプライバシー権の侵害を主張できる可能性が十分あります。

最終的に違法かどうかは、迷惑行為を指摘することにも相応の公益性があるため一概にはいえません。ただし、顔写真の公開は悪影響が大きいので、違法と判断される可能性は十分あると思われます」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る