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死刑囚の証人尋問は「非公開」にすべきか? 「裁判の公開」原則を考える
2013年05月21日 21時06分

オウム真理教の元幹部である「死刑囚」が出席する証人尋問を公開すべきかどうか――憲法で定められた「裁判公開の原則」をめぐる議論が巻き起こっている。17年近い逃亡の末、昨年逮捕されたオウム真理教の平田信被告の裁判で、教団の元幹部である死刑囚3人が証人尋問に立つことになっているが、検察側は、裁判所ではなく収容先の東京拘置所で「非公開」で行なうことを求めているのだ。

拘置所での「非公開」の尋問とすべき理由として、検察側は、外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性があることや、拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがあることなどをあげている。一方、被告の弁護団らはこうした見解に異議を唱え、裁判の公開を求める意見書を東京地裁に提出した。

日本国憲法82条では、裁判は公開法廷で行うことが原則とされている。裁判の公正な運営のためには、国民の目に見える状態にしておくことが不可欠だからだ。では、裁判を「非公開」とすることは、どのような場合に「例外」として認められるのだろうか。そして、今回はその「例外」にあたるといえるのだろうか。伊佐山芳郎弁護士に聞いた。

●憲法で保障された「裁判公開の原則」はできるだけ守られるべき

「憲法82条1項は『裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う』と定めていますが、この裁判公開の原則の目的は、秘密裁判を排除することで、裁判の公正を確保することにあります」

このように伊佐山弁護士は述べる。刑事事件については、さらに憲法37条1項で、刑事被告人の権利として「公開裁判を受ける権利」をあげており、「裁判の公開」の重要性が強調されている。

「裁判公開の原則が憲法で保障されているのは、国民が裁判を自由に批判できるようにすることで、裁判に対する国民の信頼を確保し、国民の基本的人権の保障を確実にするためです。したがって、裁判公開の原則はできるかぎり守られなければならないといえます」

しかし、この原則にも例外はあり、憲法82条2項にその条件が書かれている。つまり、「裁判所が裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる」とされているのだ。

もっとも、その但書で、「政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない」と定めている。この点について、伊佐山弁護士は「憲法は、裁判公開の原則の例外を認めていますが、その例外の場合を厳格に制限しているのです」と説明する。

●死刑囚の証人尋問を「非公開にする理由」が本当にあるのか?

では、今回のオウム真理教元幹部の「死刑囚」の証人尋問は、非公開にすべきだろうか。つまり、裁判公開の原則の「例外」にあたるといえるのだろうか。「非公開にすべきだ」という検察側と「原則どおり公開すべきだ」という弁護側の主張は真っ向から対立している。

「検察側は、『外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性がある』とか、『拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがある』などという点を、非公開にすべき理由としてあげているとのことです。しかしいずれも、死刑囚の証人尋問を非公開にする理由としては薄弱です。憲法82条2項で定められた『裁判非公開の事由』に匹敵するほどの根拠があるとは考えられません」

このように伊佐山弁護士は、ズバリ述べる。

「まず、『外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性がある』という“あいまい”な理由は、裁判公開の原則が近代的裁判制度の基本原則の一つとされることに照らして、あまりに浅薄すぎます。このような理由が、本当に検察側から法廷に提出されたものなのか、にわかに信じがたい、というのが正直な感想です。

次に、『拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがある』という理由についても、教団関係者による『身柄奪還の恐れ』に共感する市民がいるとは思えません。万が一、治安当局にそのような心配があるというのであれば、それなりの防備をすれば済むことです。そのような漠然とした“不安”を理由にして、裁判公開の原則の例外とすることは許されません」

こう説明したうえで、伊佐山弁護士は次のようにしめくくった。

「裁判の公開の原則は、司法の独善を防ぎ、人権抑圧的な裁判にならないようにするための基本原則であることを改めて肝に銘じたいものです」

憲法の精神からすれば、裁判公開の原則はできるだけ貫かれなければならず、特に今回のような刑事事件においては、なおさら原則を重視すべきだということだろう。裁判所がどのような判断を下すのか、注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

オウム真理教の元幹部である「死刑囚」が出席する証人尋問を公開すべきかどうか――憲法で定められた「裁判公開の原則」をめぐる議論が巻き起こっている。17年近い逃亡の末、昨年逮捕されたオウム真理教の平田信被告の裁判で、教団の元幹部である死刑囚3人が証人尋問に立つことになっているが、検察側は、裁判所ではなく収容先の東京拘置所で「非公開」で行なうことを求めているのだ。

拘置所での「非公開」の尋問とすべき理由として、検察側は、外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性があることや、拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがあることなどをあげている。一方、被告の弁護団らはこうした見解に異議を唱え、裁判の公開を求める意見書を東京地裁に提出した。

日本国憲法82条では、裁判は公開法廷で行うことが原則とされている。裁判の公正な運営のためには、国民の目に見える状態にしておくことが不可欠だからだ。では、裁判を「非公開」とすることは、どのような場合に「例外」として認められるのだろうか。そして、今回はその「例外」にあたるといえるのだろうか。伊佐山芳郎弁護士に聞いた。

●憲法で保障された「裁判公開の原則」はできるだけ守られるべき

「憲法82条1項は『裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う』と定めていますが、この裁判公開の原則の目的は、秘密裁判を排除することで、裁判の公正を確保することにあります」

このように伊佐山弁護士は述べる。刑事事件については、さらに憲法37条1項で、刑事被告人の権利として「公開裁判を受ける権利」をあげており、「裁判の公開」の重要性が強調されている。

「裁判公開の原則が憲法で保障されているのは、国民が裁判を自由に批判できるようにすることで、裁判に対する国民の信頼を確保し、国民の基本的人権の保障を確実にするためです。したがって、裁判公開の原則はできるかぎり守られなければならないといえます」

しかし、この原則にも例外はあり、憲法82条2項にその条件が書かれている。つまり、「裁判所が裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる」とされているのだ。

もっとも、その但書で、「政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない」と定めている。この点について、伊佐山弁護士は「憲法は、裁判公開の原則の例外を認めていますが、その例外の場合を厳格に制限しているのです」と説明する。

●死刑囚の証人尋問を「非公開にする理由」が本当にあるのか?

では、今回のオウム真理教元幹部の「死刑囚」の証人尋問は、非公開にすべきだろうか。つまり、裁判公開の原則の「例外」にあたるといえるのだろうか。「非公開にすべきだ」という検察側と「原則どおり公開すべきだ」という弁護側の主張は真っ向から対立している。

「検察側は、『外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性がある』とか、『拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがある』などという点を、非公開にすべき理由としてあげているとのことです。しかしいずれも、死刑囚の証人尋問を非公開にする理由としては薄弱です。憲法82条2項で定められた『裁判非公開の事由』に匹敵するほどの根拠があるとは考えられません」

このように伊佐山弁護士は、ズバリ述べる。

「まず、『外部接触を禁じられた死刑囚が法廷で傍聴人らを見て動揺する可能性がある』という“あいまい”な理由は、裁判公開の原則が近代的裁判制度の基本原則の一つとされることに照らして、あまりに浅薄すぎます。このような理由が、本当に検察側から法廷に提出されたものなのか、にわかに信じがたい、というのが正直な感想です。

次に、『拘置所から裁判所に移動する際に逃走や教団関係者による身柄奪還の恐れがある』という理由についても、教団関係者による『身柄奪還の恐れ』に共感する市民がいるとは思えません。万が一、治安当局にそのような心配があるというのであれば、それなりの防備をすれば済むことです。そのような漠然とした“不安”を理由にして、裁判公開の原則の例外とすることは許されません」

こう説明したうえで、伊佐山弁護士は次のようにしめくくった。

「裁判の公開の原則は、司法の独善を防ぎ、人権抑圧的な裁判にならないようにするための基本原則であることを改めて肝に銘じたいものです」

憲法の精神からすれば、裁判公開の原則はできるだけ貫かれなければならず、特に今回のような刑事事件においては、なおさら原則を重視すべきだということだろう。裁判所がどのような判断を下すのか、注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

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