5878.jpg
六本木「赤ケバブ」の客引き、風営法違反容疑で書類送検…普通の飲食店なのになぜ?
2017年07月20日 09時48分

赤色看板の「赤ケバブ」と、青色看板の「青ケバブ」。いずれも、東京・六本木で隣り合うように競って営業するケバブ店だが、「赤ケバブ」が執拗な客引き行為をしたとして、経営者のトルコ国籍の男性が、警視庁麻布署に風営法違反容疑で書類送検された。

産経新聞によると、一般的な飲食店の客引き行為に風営法違反容疑を適用して、経営者を摘発するのは全国初。経営者は、ケバブ店の従業員に対して、通行者に抱きつくなどのしつこい客引きをさせた疑いがもたれている。以前から、「赤ケバブ」と「青ケバブ」が面する路上では、客引き合戦が激しく、通行人から不快だとの批判の声があがっていた。

なぜ、通常の飲食店にもかかわらず、風営法が適用されることになったのか。風営法にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。

赤色看板の「赤ケバブ」と、青色看板の「青ケバブ」。いずれも、東京・六本木で隣り合うように競って営業するケバブ店だが、「赤ケバブ」が執拗な客引き行為をしたとして、経営者のトルコ国籍の男性が、警視庁麻布署に風営法違反容疑で書類送検された。

産経新聞によると、一般的な飲食店の客引き行為に風営法違反容疑を適用して、経営者を摘発するのは全国初。経営者は、ケバブ店の従業員に対して、通行者に抱きつくなどのしつこい客引きをさせた疑いがもたれている。以前から、「赤ケバブ」と「青ケバブ」が面する路上では、客引き合戦が激しく、通行人から不快だとの批判の声があがっていた。

なぜ、通常の飲食店にもかかわらず、風営法が適用されることになったのか。風営法にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。

●制裁効果が強い「風営法」

通常の飲食店にもかかわらず、風営法が適用されたのは、客引き行為が行われたのが深夜だったからです。六本木のある港区で客引き行為を規制する法令は、4つあります。違反に対する制裁効果が弱いものから説明すると、以下のとおりとなります。

(1)港区客引き行為等の防止に関する条例

この条例は、港区内の客引き行為の実態を踏まえ、(3)の東京都迷惑防止条例よりも規制対象自体は広げられています。つまり、居酒屋やカラオケ、マッサージなど、全ての業種で公共の場所における客引き行為を禁止しています。しかし、違反者が行為を是正しない場合でも、刑罰はなく、法(条例)違反に対する制裁金としての過料(5万円以下)と公表(氏名、住所、店舗名など)しかありません。違反に対する制裁効果は弱いと言わざるをえません。

(2)軽犯罪法

軽犯罪法は、「他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為」を規制対象としています。違反者に対しては、拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)の刑罰が科せられますが、制裁効果は強くありません。

(3)東京都迷惑防止条例

東京都迷惑防止条例は、性的な要素や異性による接待があるサービス以外の一般の業種については、「執ような」客引きだけが規制対象となっています。違反者に対しては、罰金(50万円以下)の刑罰などが科せられますが、懲役刑はなく、やはり、制裁効果は強くありません。

(4)風営法

風営法は、いわゆる風俗営業ではない一般の飲食店営業についても、深夜(午前0時から日出時まで)の営業に関して客引き行為を禁じています。一般の飲食店営業であっても、深夜に営まれる場合には、善良の風俗を害する行為を誘発するおそれがあるためです。違反者に対しては、懲役(6月以下)や罰金(100万円以下)が科せられます。制裁効果は、懲役刑まであることから明らかなとおり、(1)~(3)に比べて強力です。

●深夜の時間帯でなければ、風営法は適用されない

今回のケースでは、通行人から多くの苦情が寄せられていた上に、警察による警告にも従わなかったために、悪質であると判断された結果、深夜の時間帯における客引き行為について、制裁効果の強い風営法が適用されたと考えられます。一般の飲食店営業の客引き行為については、深夜の時間帯でなければ、いくら態様が悪質であっても、風営法は適用されません。

なお、風営法はいわゆる両罰規定があり、直接の違反をした行為者のみならず、経営者も罰せられます。今回のケースでも、客引きをした従業員と経営者の両方が摘発されています。

近年、客引き行為や客待ち行為に対する規制は、厳しくなる傾向です。2020年の東京オリンピック開催に向けて、さらなる厳罰化が進むかもしれません。経緯からして本件の摘発はやむを得なかったかもしれませんが、「街の浄化」という名目のもと、全ての業種で客引き行為を一律に禁止し、かつ、違反者には直ちに厳罰に処するといったことは行き過ぎであると考えます。住民や通行人の権利と事業者の権利をいずれも不当に侵害しないようにバランスをとることが重要ではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る