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AKB48岡田奈々さん卒業で議論、アイドルは「恋愛禁止」守らないといけないの? エンタメ弁護士が解説
2022年11月25日 10時05分
#アイドル #AKB48 #岡田奈々

アイドルの「恋愛禁止」ルールについて、ネットで議論となっています。発端は、人気アイドルグループ「AKB48」岡田奈々さんの週刊文春による熱愛報道でした。

この報道を受け、岡田さんは11月23日、自身のSNSで「今まで応援してくださったファンの皆様を裏切るような行動をとってしまい 本当にごめんなさい」と謝罪したうえで、AKBからの卒業を発表しました。

岡田さんの恋愛発覚をきっかけに、ネットでは「アイドルはファンのために恋愛禁止のルールを守るべき」「アイドルだって恋愛するのは自由」などさまざまな意見が交わされています。そこで、アイドルの恋愛について、法的に考えてみたいと思います。

岡田さんの報道後、AKB48の総監督、向井地美音さんはツイッターで11月21日、「改めて運営に確認をとったところ『AKB48グループに恋愛禁止のルールはなく、それぞれが自覚を持って活動することで成り立っている』とのことでした」とツイートしています。

一方で、「恋愛禁止」というルールがないといっても、「アイドルが恋愛することは許されない」というファンの認識があることも、たしかです。

今回の熱愛報道を受け、14年間ファンだった男性がAKBのグッズを破壊する写真とともに、「俺の人生を取り戻した スキャンダルから色々考えた 14年間楽しかったです」「さようなら、たくさんの思い出よ」というツイートをして注目を集めました。

AKB48の運営は「恋愛禁止」というルールはないとしていますが、実際に恋愛が発覚したとき、アイドルへの影響は大きいです。こうしたルールをどう考えればよいのでしょうか。芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞きました。

——アイドルに「恋愛禁止」ルールを課すことは可能なのでしょうか?

まず、芸能事務所がアイドルに契約で恋愛禁止を強いることは困難です。

そもそも、恋愛禁止ルールが設けられる理由は、アイドルビジネスという市場の顧客はファンであり、ファンの中にはアイドルに対して恋愛禁止を求める声もあるからです。それゆえ芸能事務所やアイドルの運営は「恋愛禁止」を設けることで、顧客のニーズに応えようとします。

このようなアイドル市場において、芸能事務所側は所属アイドル側にさまざまな禁止条項を契約書に入れますが、その一つが「恋愛禁止」になります。

過去に、恋愛禁止条項が有効とされた裁判例もありましたが、その後、2016年には「異性との交際は人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権」であることを理由に、損害賠償を認めない判決が出ています。

これ以降、アイドルの恋愛禁止を問う裁判はほとんど見かけません。芸能事務所側も、たとえ契約書に書いてあったとしても、裁判で無効と判断されるリスクがあるから訴訟を躊躇しているのではないかと思われます。

——実際に恋愛が発覚すれば、今回の岡田さんのようにアイドル生命に影響するスキャンダルになる場合もあります。所属するグループや事務所にとっては「損害」になるのではないでしょうか?

恋愛が発覚したことでファンを辞めるという判断を止めることはできず、「彼氏がいることを公言しているアイドルを応援しようとは思わない」という声があるのも事実です。つまり恋愛が発覚すればファンは減る傾向にあります。

アイドルという存在も10年前とは変わりました。頻繁にテレビに登場し、誰もが知っている存在が「アイドル」だったのが、SNSの発展やライブ会場の増加によって、特に首都圏ではアイドル人口が増加しています。「地下アイドル」「ライブアイドル」という言葉が生まれ、それにともないアイドル同士の競争が激化しています。

歌やダンスをはじめとしたパフォーマンスで差別化することが考えられますが、メディアとのつながりが強い大手事務所でなければそもそもパフォーマンスを見られる機会も限られます。そんな状況の中、ファン獲得のためには自ら恋愛禁止を掲げ差別化するグループやメンバーもいます。

アイドル自身が自分たちのルールとして設けることはもちろん可能で、違反した場合に歌割りの変更や活動の一部制限というペナルティは、違約金や損害賠償のケースとは異なり違法とまではいえないかと思います。

——芸能に関するトラブル解決に関わってきた経験から、恋愛禁止ルールは時代と共にどうあるべきと考えますか?

芸能事務所側としては主に3つの選択があります。(1)恋愛禁止を明言する。(2)恋愛禁止でないことを明言する。そして、(3)特に何も触れず、ファンの想像に任せる。一番使いやすいのは3つ目の「特に何も触れず、ファンの想像に任せる」ファンタジー方式で、大手事務所が採用している印象があります。

さまざまなファン層の中で、恋愛禁止を求める人がいるのも事実でしょうから、彼らを「恋愛感情」によって惹きつけるため、恋愛禁止を明言したり、ファンの想像に任せるグループや事務所もあるかもしれません。

ところが、今回のような報道があると、ファンの感情が行き場を失い、炎上につながることもあります。その際に、 問題になるのが誹謗中傷です。

ファン側も「好きだ」という気持ちが強くなってくると、だんだん理想を押し付け「こうあってほしい」から「こうあるべきだ」に変わっていきます。

そして、いざ恋愛発覚すると楽しかった思い出が消えて、SNSでの誹謗中傷に発展したり、報道に便乗して事実に基づかない嘘の憶測をSNSに流すケースがあります。こうした行為は、名誉毀損や偽計業務妨害になる可能性があります。

——アイドル側からすると恋愛禁止ルールはどうなっていくでしょうか?

アイドル自身も恋人がいることが報道されれば、今まで自分のためにライブ会場に足を運んでくれたファンの中にショックを受ける人がいることは、身近でファンを見ているからこそより想像できる部分もあるかと思います。それゆえ、自身の決定として、在籍中の恋愛は我慢しようと自ら決めているアイドルもいます。

ファンがいないとアイドルビジネスは成立しません。しかし、 プライベートまで含め常に周りと全方位的に比べられるアイドル側の精神的負荷は相当なもので、本人の気持ちが折れてしまえばアーティスト活動の継続は不可能です。

ももクロの高城れにさんのように、実際に恋愛(高城さんの場合は結婚)を公言しても活動を続けるアイドルもいます。ファン側の意識変化とともに、必ずしも恋愛禁止がアイドル全般に当てはまるものではなくなってくるでしょうし、アイドル活動を長く続けられる環境は、結果ファン側にとっても長く楽しめることに繋がるのではないでしょうか。

アイドルの「恋愛禁止」ルールについて、ネットで議論となっています。発端は、人気アイドルグループ「AKB48」岡田奈々さんの週刊文春による熱愛報道でした。

この報道を受け、岡田さんは11月23日、自身のSNSで「今まで応援してくださったファンの皆様を裏切るような行動をとってしまい 本当にごめんなさい」と謝罪したうえで、AKBからの卒業を発表しました。

岡田さんの恋愛発覚をきっかけに、ネットでは「アイドルはファンのために恋愛禁止のルールを守るべき」「アイドルだって恋愛するのは自由」などさまざまな意見が交わされています。そこで、アイドルの恋愛について、法的に考えてみたいと思います。

●熱愛報道受け、ショックを受けるファン

岡田さんの報道後、AKB48の総監督、向井地美音さんはツイッターで11月21日、「改めて運営に確認をとったところ『AKB48グループに恋愛禁止のルールはなく、それぞれが自覚を持って活動することで成り立っている』とのことでした」とツイートしています。

一方で、「恋愛禁止」というルールがないといっても、「アイドルが恋愛することは許されない」というファンの認識があることも、たしかです。

今回の熱愛報道を受け、14年間ファンだった男性がAKBのグッズを破壊する写真とともに、「俺の人生を取り戻した スキャンダルから色々考えた 14年間楽しかったです」「さようなら、たくさんの思い出よ」というツイートをして注目を集めました。

●「恋愛禁止」を契約書に入れられる?

AKB48の運営は「恋愛禁止」というルールはないとしていますが、実際に恋愛が発覚したとき、アイドルへの影響は大きいです。こうしたルールをどう考えればよいのでしょうか。芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞きました。

——アイドルに「恋愛禁止」ルールを課すことは可能なのでしょうか?

まず、芸能事務所がアイドルに契約で恋愛禁止を強いることは困難です。

そもそも、恋愛禁止ルールが設けられる理由は、アイドルビジネスという市場の顧客はファンであり、ファンの中にはアイドルに対して恋愛禁止を求める声もあるからです。それゆえ芸能事務所やアイドルの運営は「恋愛禁止」を設けることで、顧客のニーズに応えようとします。

このようなアイドル市場において、芸能事務所側は所属アイドル側にさまざまな禁止条項を契約書に入れますが、その一つが「恋愛禁止」になります。

過去に、恋愛禁止条項が有効とされた裁判例もありましたが、その後、2016年には「異性との交際は人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権」であることを理由に、損害賠償を認めない判決が出ています。

これ以降、アイドルの恋愛禁止を問う裁判はほとんど見かけません。芸能事務所側も、たとえ契約書に書いてあったとしても、裁判で無効と判断されるリスクがあるから訴訟を躊躇しているのではないかと思われます。

●自分たちで恋愛禁止ルールを設けることは可能だけれど…

——実際に恋愛が発覚すれば、今回の岡田さんのようにアイドル生命に影響するスキャンダルになる場合もあります。所属するグループや事務所にとっては「損害」になるのではないでしょうか?

恋愛が発覚したことでファンを辞めるという判断を止めることはできず、「彼氏がいることを公言しているアイドルを応援しようとは思わない」という声があるのも事実です。つまり恋愛が発覚すればファンは減る傾向にあります。

アイドルという存在も10年前とは変わりました。頻繁にテレビに登場し、誰もが知っている存在が「アイドル」だったのが、SNSの発展やライブ会場の増加によって、特に首都圏ではアイドル人口が増加しています。「地下アイドル」「ライブアイドル」という言葉が生まれ、それにともないアイドル同士の競争が激化しています。

歌やダンスをはじめとしたパフォーマンスで差別化することが考えられますが、メディアとのつながりが強い大手事務所でなければそもそもパフォーマンスを見られる機会も限られます。そんな状況の中、ファン獲得のためには自ら恋愛禁止を掲げ差別化するグループやメンバーもいます。

アイドル自身が自分たちのルールとして設けることはもちろん可能で、違反した場合に歌割りの変更や活動の一部制限というペナルティは、違約金や損害賠償のケースとは異なり違法とまではいえないかと思います。

●「恋愛禁止」は炎上につながり、誹謗中傷の可能性も

——芸能に関するトラブル解決に関わってきた経験から、恋愛禁止ルールは時代と共にどうあるべきと考えますか?

芸能事務所側としては主に3つの選択があります。(1)恋愛禁止を明言する。(2)恋愛禁止でないことを明言する。そして、(3)特に何も触れず、ファンの想像に任せる。一番使いやすいのは3つ目の「特に何も触れず、ファンの想像に任せる」ファンタジー方式で、大手事務所が採用している印象があります。

さまざまなファン層の中で、恋愛禁止を求める人がいるのも事実でしょうから、彼らを「恋愛感情」によって惹きつけるため、恋愛禁止を明言したり、ファンの想像に任せるグループや事務所もあるかもしれません。

ところが、今回のような報道があると、ファンの感情が行き場を失い、炎上につながることもあります。その際に、 問題になるのが誹謗中傷です。

ファン側も「好きだ」という気持ちが強くなってくると、だんだん理想を押し付け「こうあってほしい」から「こうあるべきだ」に変わっていきます。

そして、いざ恋愛発覚すると楽しかった思い出が消えて、SNSでの誹謗中傷に発展したり、報道に便乗して事実に基づかない嘘の憶測をSNSに流すケースがあります。こうした行為は、名誉毀損や偽計業務妨害になる可能性があります。

●アイドル活動を長く続けられる環境はファンにとっても楽しみ

——アイドル側からすると恋愛禁止ルールはどうなっていくでしょうか?

アイドル自身も恋人がいることが報道されれば、今まで自分のためにライブ会場に足を運んでくれたファンの中にショックを受ける人がいることは、身近でファンを見ているからこそより想像できる部分もあるかと思います。それゆえ、自身の決定として、在籍中の恋愛は我慢しようと自ら決めているアイドルもいます。

ファンがいないとアイドルビジネスは成立しません。しかし、 プライベートまで含め常に周りと全方位的に比べられるアイドル側の精神的負荷は相当なもので、本人の気持ちが折れてしまえばアーティスト活動の継続は不可能です。

ももクロの高城れにさんのように、実際に恋愛(高城さんの場合は結婚)を公言しても活動を続けるアイドルもいます。ファン側の意識変化とともに、必ずしも恋愛禁止がアイドル全般に当てはまるものではなくなってくるでしょうし、アイドル活動を長く続けられる環境は、結果ファン側にとっても長く楽しめることに繋がるのではないでしょうか。

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