妻から幼稚園のママ友の夫との不倫をカミングアウトされた。離婚はせずに相手に慰謝料を請求したいーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、離婚はせずに夫婦関係の修復を目指しています。妻の不倫相手も離婚を望んでおらず、不倫の事実を「妻にも知られたくない」と希望しており、慰謝料の支払いに同意しているといいます。
相談者は、相手の妻にバレた場合に慰謝料請求をされることを心配しているようですが、示談書はどのような内容を盛り込めばよいのでしょうか。
●不貞慰謝料の示談書には何を記載すべき?
示談書は、当事者の合意に基づいて作成されるため、その内容はある程度自由に決められますが、よく盛り込まれる内容としては、以下のような点があります。
- 示談の範囲(解決対象の事実の特定):いつからいつまでの、誰と誰の不貞行為について示談するのかを明確にします。
- 慰謝料の金額と支払方法:合意した金額と、どのような方法で振り込むのか、たとえば銀行振込なら、どの口座にいつ振り込むのかなどを具体的に記載します。
- 接触禁止条項:不貞相手と、今後一切会わない、連絡を取らないといった内容を明記します。なお、子どもが同級生で親同士の接触がどうしても避けられない場合は、必要以上の接触を避けるといった現実的な内容にすることが考えられます。
- 秘密保持(口外禁止)条項:この示談の事実や内容を第三者に公表しないことを約束させます。
- 清算条項:この示談書に定めるもののほかに、お互いに何らの債権・債務がないことを確認する条項です。
- 違反があった場合の制裁:接触禁止条項などに違反した場合に、追加の慰謝料を支払う旨を定めます。
●公正証書にしたほうが良いか?
「公正証書にした方がよいですか?」という相談もよくあります。
公正証書とは、公証人が公証人法・民法などの法令に基づき作成する公文書のことです。
慰謝料の支払いがまだ完了していない場合、公正証書に「債務者が強制執行されても文句をいいません」という趣旨のことば(「強制執行認諾文言」といいます)を記載することで、相手が支払いを怠ったときに、別途裁判を起こさなくても、この公正証書にもとづいて強制執行(相手の財産を強制的に差し押さえてお金を支払わせること)を行うことが可能になります(民事執行法22条5号)。
そのため、慰謝料を確実に支払ってもらいたいと考えるのであれば、公正証書にするメリットは大きいといえます。
他方で、既にお金を支払ってもらっている場合などには、公正証書にするメリットはあまりないでしょう。
●相手の配偶者からの慰謝料請求リスクは残る
示談書を交わしたとしても、不倫相手の妻から相談者の妻に対する慰謝料請求のリスクは残ります。
不貞行為は、夫婦の平穏な共同生活という権利・利益を侵害する不法行為であり、被害者である配偶者(この事例では不倫相手の妻)は、不貞行為をした配偶者(不倫相手の夫)と、その不倫相手(相談者の妻)の両方または一方に対して、慰謝料を請求できます(民法719条)。
相談者と不倫相手の夫との間で示談をしても、その示談書は当事者間(=相談者と不倫相手の夫の間)での合意にすぎず、不倫相手の妻との関係では効力が及びません。不倫相手の妻が被害者として有する慰謝料請求権を、この示談によって失わせることはできないからです。